業界人インタビューvol.3 制作会社:卜部将斗さん

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様々な職業の方々に、その職業を目指したきっかけや、やりがいなど、気になるあれこれについてインタビューを行い、webマガジンとして配信している「業界人インタビュー」。
第3回は、現在制作会社に勤務し、様々なテレビ番組を制作している卜部将斗さん。
 

 
—————本日はよろしくお願いします。
 
卜部将斗(以下、卜部)よろしくお願いします。
 
 
—————なぜテレビ番組をつくる職業に就こうと思われたのですか?
 
卜部 学校に行っている時以外はずっとテレビを見ている小学生でした。朝起きて、「おはスタ」を見て「めざましテレビ」を見て、「とくダネ」を少し見てから学校に行って、夕方の四時頃に家に帰ってきてから、ドラマの再放送を見て、そこから夕方のニュース番組を見て、そこからずっと11時頃までバラエティ番組を見ているっていう(笑)。進学して中学、高校生になってもその流れが続いていました。元々テレビが凄く好きだという事が根本にあって、高校生ぐらいから自分でもっと面白いテレビ番組をつくってみたいなと思い始めて就職しました。
 
 
—————一番好きだったテレビ番組は何ですか?
 
卜部 「ヘキサゴン」ですね。ヘキサゴンファミリーの空気感がとても好きで、そこにハマりました。テレビ番組をつくりたいってなった時に、頭の中でイメージできたのが「ヘキサゴン」で、こういうクイズ番組があったら良いのに、ということを考え出したきっかけですね。色々な番組を見ていて、その番組のキャスティングを考えたり、企画を考えたりとかは高校生の時から常日頃やってましたね。
 
 
—————今の仕事のやりがいは何ですか?
 
卜部 僕は今、制作会社の社員で、テレビ局員ではないので、TBSに仕事で出勤させていただいてる感じなんですよ。局内を歩いているとたくさんの芸能人の方々にお会いする事ができるんですよ。それが今の所やりがいになっていますね(笑)。今は入社一年目で、自分で企画を立てて番組を制作したりっていうことはなく、ロケの備品の買い出しに行ったりとか資料を作ったりすることがメインの仕事なんで、まだ自分の力でテレビが面白くなったなっていうレベルにまで達してないんですよ。だから今のやりがいは芸能人に会えるっていうことですね(笑)。
 
 
—————会った芸能人の中で印象に残っている人はいますか?
 
卜部 芸能人は基本的にテレビのままでオーラとかはあまり感じないんですけど、唯一オーラを感じたのは廊下ですれ違った志村けんさんですね。志村けんさんと上島竜兵さんが一緒に歩いていて、スタジオに入るところを見たんですけど、ものすごいオーラでしたね(笑)。
 
 
—————この仕事をやっていて一番嬉しかったことはなんですか?
 
卜部 上司に自分の意見が通った時ですね。TBS局内の楽屋を使ってドッキリを仕掛けるというロケの時に、ドッキリの仕掛け人が使う楽屋が取れないという事があったんですよ。ベテランのAPさんに「どうにかならない?」って言われたんですが、その時にTBS局内の部屋を管理する係をやっていたので、一部屋だけ旅館の和室みたいな会議室がある事を知っていたんですよ。そこは基本的には使わないのでAPさんもその存在を知らなかったぐらいなんですよ。だから僕が「和室会議室いいんじゃないですか?」って提案して、その部屋の写真を撮って見せたら見事に意見が通ったんですよ。その部屋に仕掛け人を入れて、意気込みコメントまでそこで撮ったんですよ。自分の提案した部屋で撮影が行われて、それが全国に放送されたことが今までで一番嬉しかったですね。
 

 
—————今までで辛かったことはなんですか?
 
卜部 最初の一、二ヶ月は何やってもダメで、テレビ業界の常識を知らなくて、怒られてたことですかね。一回凄い怒られたのは、演者さん用のヒーターとその他撮影で使う備品の買い出しを頼まれたときです。ロケに使う道具は前日に全部揃えるんですけど、僕はまずドン・キホーテに行って、撮影で使う大量の備品を買ってたんですよ。その後に家電量販店に行って、ヒーターを買おうとしたんですけど、8時を過ぎていたので閉まっていたんで、ヒーターだけ買えなかったんですよ。そんな買い出しの常識も知らなかったので、覚えるまでは結構辛かったですね。
今までで一番辛かったことは、大学在学中の二月の末に、入社前の研修に行った時の事ですね。初日にロケの準備をしていたんですけど、次の日のロケの人数が足りなかったんで、次の日に一緒にロケに行ったんですよ。それで研修の初日から椅子三つ並べて会社で寝たんですよ。その後ロケに行って、帰ってきてまた泊まって、研修の時点で二泊三日して家に帰れなかったことですね。自分でも想像してはいたんですけど、実際にやって見るとかなり辛かったです(笑)。給料をもらってはいたんですけど、入社までの間、卒業式ぐらいしか休みはなかったですね。
 
 
—————ADになって初めての仕事は何ですか?
 
卜部 大食いタレントさんを2人呼んで、ざるそばを沢山食べるロケですね。大食いのロケだったので、ディレクターさん的にはセイロがめちゃくちゃ沢山積み重なっている画が欲しかったんですね。でも美術さんに発注をかけたんセイロの量じゃ足りなくて、先輩と二人で合羽橋にセイロを買いに行って、その後にロケに行ったのが初めての仕事ですね(笑)。
 
 
—————どのような番組を作りたいですか?
 
卜部 バラエティ番組を作りたいっていうのが大前提にあって、僕は情報バラエティではなく、「リンカーン」や「水曜日のダウンタウン」のようなお笑いファンが見たいと思うようなバラエティ番組を作りたいですね。「リンカーン」は毎週違う企画をやっていたんですけど、そういうことがやりたいですね。
 
 
—————今苦労していることは何ですか?
 
卜部 入社したばかりの時と比べると、モチベーションがどんどん下がってきているので、そのモチベーションを保つことですかね(笑)。最初の一、二ヶ月は憧れていたテレビの世界で働けると思ってめちゃくちゃ頑張っていたんですよ。でもそんな環境にだんだん慣れてきて、正直今そこまでモチベーションがないんですよ(笑)。なので今はモチベーションを保つことに一番苦労してますね。
 
 
—————辞めたいって思うことはありますか?
 
卜部 全然ありますよ(笑)。まだ分からないんですけど、年末年始はテレビ業界は特番とかで忙しい時期なんで、おそらく休みがないんですよ。そういうことを考えているとふとした瞬間に普通の生活がしたいなって思うときがあるんですよ。土日休みで、夏休みがあって、年末年始休めるみたいな(笑)。
 

 
—————コンプライアンスについてどう思いますか?
 
卜部 最近は正直BPOが厳しいなって思いますね。もちろんやらせとかであれば厳しく取り締まってもいいと思うんですけど。以前「オールスター謝肉祭」という番組を、一視聴者として見ていたんですけど、それがBPO に引っかかっていたんですね。引っかかるような内容ではないだろって見てて思ったんですよ。それがもちろんいじめに発展するような内容であればダメだと思うんですよ。でも最近はいじめに発展しなさそうなものも規制されつつあるんで、ちょっと窮屈になってきてはいますね。
 
 
—————視聴率についてどう思いますか?
 
卜部 数字を持ってるなっていうタレントさんはいますね。毎回自分が担当している番組が終わった翌日に視聴率が出るんですけど、それをADがまとめて資料を作っていろんな人に送るんですよ。僕の担当している番組は前に放送されている番組の視聴率が凄くいいんですよ。前の番組からそのまま続けて見る人が多いので、担当している番組が始まった時の視聴率は凄く良いんですよ。なので最初の企画は前の番組をよく見てくれている主婦層を取り込みたいので、主婦や家族向けの企画をやるんですよ。それでそのあとは違う企画をやるんですよ。
最近放送したやつだと、一つ目に主婦層を取り込めるような企画を持ってきて、二つ目に映画の宣伝。三つ目に新垣結衣さんが出演するドラマの宣伝。四つ目に別のドラマの番組宣伝の企画をやったんですよ。今一番力がある新垣結衣さんの企画を真ん中に持ってきて、視聴率を維持しようとはしたんですけど、視聴率がどんどん下がってしまったんですよ。力があるタレントさんとは言え、時間帯によっては数字を全然上げられないし、夜遅くなるにつれて、テレビを見る人も減って視聴率が下がるので、そこに悩んでますね。なのでうちの番組だけで言えば、数字を持っているタレントさんがいるということは実感できてませんね。
でも前に香川照之さんに出演していただいた企画があったんですけど、その時の視聴率の上がり具合は凄かったですよ。まあでも正直一度視聴率をそこまで気にしないでもいい深夜番組をやりたいなっていう気持ちはありますね。まあそれも視聴率が悪すぎたら終わっちゃうんですけど(笑)。
 
 
—————この職業を目指す上で、学生のうちからやっておいたほうが良いことは何ですか?
 
卜部 これはもうテレビや映画をたくさん見ることですね。これは皆が言う事だとは思うんですけど、個人的にこの業界で働いていて、大切だなって思ったことは、東京の道を覚えるっていうことですね。例えば街頭インタビューのロケをする時に、同じ場所でインタビューし続けることもあるんですけど、場所を変えてインタビューをすることもあるんですね。そのロケには大体ディレクター1人、AD1人なんですよ。前にインタビューを銀座でやっていた時にディレクターに築地が近いから築地でもインタビューしようって言われて、「築地ってどっちだっけ?」っていう風に急に聞かれたんですよ。その時分からなかったので、携帯で調べたんですけど、その時間がすごく無駄だったんですね。なので免許を持っている人は今の内から東京の道を運転しておくと道を覚えられるので良いと思いますね。
 
 
—————仕事をする上で大切にしていることは何ですか?
 
卜部 自分はテレビを好きであり続けたいっていうことですね(笑)。就職してテレビを見る時間が極端に減ったんですよ。なのでテレビを作る仕事に就いているのにテレビに疎くなってくるんですよ。この前、編集所に4年目のADが2人いたんですけど、その2人とも忙しくてテレビを見てなくて、にゃんこスターを知らなかったんですよ。それぐらい流行りに乗れなくなるんですよ。でも僕はテレビを見続けたいし、今の忙しい状況でも「水曜日のダウンタウン」だけは必ず毎週見るようにしてますね。
 
 
—————テレビ業界はブラックだというイメージがあるんですが、実際働いてみてどうですか?
 
卜部 ぼくが入社した三月頃には、ちょっと前に起こった電通の事件対策で、労働時間の規制が始まったんですよ。僕は制作会社に入って、そこからTBSに行って番組作りをしているので、テレビ局員ではないんですけど、TBSで働いているので大きく言うと、TBSが僕の労働の管理をしないといけなくなっているんですよ。労働環境の改善は大手の企業から始まっているので、TBSで働いているADは13時出社の22時退社の1時間休憩っていう風になったんですよ。ほぼOLですよ(笑)。ADなのにめちゃくちゃ環境が良くて、月4日の休みもちゃんとあるんですよ。ただこの状況は大手ゆえなので、改善されていない職場では、朝出社の終電で帰る、もしくは徹夜するみたいな状況もありますね。でもどんどん改善されていっているので、バリバリをイメージする人はあれ?ってなるかもしれないですね(笑)。今後どうなるか分からないですけど、労働時間が少ないっていう状況は、編集に割ける時間が減ったり、リサーチする時間が減ったりと明らかにテレビにとってはマイナスになっているんですけど、寝袋で寝たりとかする辛い状況ではないですね。
ADの労働環境が改善されているんですけど、ディレクターは改善されてないんですよ。なのでディレクターになったら自分のやりたいことができて、自由が効いて仕事ができるっていう感じではないんですよ。ディレクターは色々な企画を担当して休みがない、のなんて普通にあります。なので出世する意味があまりなくなっているんですよね。自分が作りたい番組を作って、お金ももらえるようにはなるんですけど、今以上に忙しくなってしまうので。今の状況では、ディレクターよりもADの方が休み多いですね。
 
 
—————目標にしている人はいますか?
 
卜部 水曜日のダウンタウンのプロデューサーをしている藤井健太郎さんですね。学生時代から藤井さんが担当しているテレビ番組が好きで良く見ていました。特にタレント名鑑っていう番組が好きでした。藤井さんが作る番組はお笑いファンとしてすごく面白くて、そういう人になりたいなって思いますね。
 
 
—————この業界を目指す人にアドバイスをお願いします
 
卜部 表面と裏面で話しますね(笑)。表面では、好きなことが今できているので、本当にテレビが好きな人は、入ってやりたいことがあるならやった方がいいと思います。僕はそんなにモチベーションがある人ではないのですが、モチベーションがある人がやればとても楽しい仕事だと思います。なので皆さん是非一緒に働きましょう。
逆に裏面は今、テレビ番組を作るという夢が現実になって、その状況が当たり前になって、モチベーションが薄くなってきています。その結果土日休みがいいなとか、年末年始休みたいなとか思うことがあります(笑)。入社する前は休みがないことや徹夜で仕事をすることなんて当たり前だと思ってました。そんなことを思っていた僕でも家に帰りたいっていう気持ちがどんどん強くなってきています(笑)。本当にモチベーションを保つことがとても大変な仕事だと思うので、ちょっとでもその節がある人は要注意です(笑)。
 
 

 
〜うらべ・まさと〜
埼玉県戸田市生まれ。現在、制作会社に勤務しており、様々な番組制作に携わっている。
 
(取材・文=米澤一輝)

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